「そっかー今日はひめのんの誕生日か・・・」
明神は、何気なく突っ込んでいたジーパンのポケットの中を探った。
中身を丸々掴んで、外に出して手を広げる。
そこにはほんの少しの、小銭。
「・・・何も買えねえ」
「ほら、じょうちゃん。お土産のタイヤキだ」
十味は超甘党の姫乃にタイヤキをプレゼントして。
「ヒメノ!アズミの絵ー!」
アズミは姫乃に絵をプレゼントして。
「ヒメノ!見てたか!?って見えねえけど絶対ホームランだろ!」
ピッチャー加藤の投げたボールをホームランにしてプレゼントして。
「ほら、ねーちゃん。綺麗だろ?!」
ツキタケはここぞ穴場!の桜の名所に姫乃を案内して。
「ひめのん、待ってて。とびきりの愛のフレーズをプレゼントする」
ガクは姫乃に愛の言葉をプレゼントしたりなんかして。
「・・・ごめんな、ひめのん」
「どうして明神さん謝るんですか?」
「だって、オレだけ何のプレゼントも用意できてないし!」
非常に情けないが、案内屋としての収入も管理人としての収入も乏し
い(しかも家賃として入ってくるのは姫乃の部屋の分だ)明神には、プレゼン
トを買う余裕が無かったのだ。
姫乃の誕生日に気付いたのが当日なのも痛かった。
「別に、私プレゼントが欲しいわけじゃないよ?」
「え、だって」
誕生日といえばケーキにプレゼントだろう。
明神は幼い頃から独りという時間を過ごしてきたから、単純なお誕生日像しか浮かばない。
他に何かあるだろうかと考えを巡らせていると、姫乃が日差しをたっぷり受けて育ったひまわり
のような眩しい笑顔を浮かべた。
「私は皆の気持ちが嬉しいの!」
「・・・ひめのん」
「だから、明神さんが祝ってあげようって思
っててくれたことが嬉しいし・・・。お誕生日に明神さんといられることが、嬉しいから。
ありがとう、明神さん」
輝く笑顔に、明神は言葉を継げなくなった。
あまりにも素直で直球の感情に、胸が詰まるような想いまでする。
きゅんと音を立てそうな胸には喜びが溢れてきて、ふと、昔のことを思い出した。
自分が”明神”ではなかった頃。
”明神”に冬悟と呼ばれていた時の、自分の誕生日のことを。
あのおっさんはケーキを買ってきて、プレゼントまで買ってきて。
一緒にいて、誕生日を祝ってくれたのだ。
ケーキよりもプレゼントよりも、誕生日に一緒に過ごす人がい
ることが嬉しいことなのだと気付いたのは、自分が明神を名乗ってからだった。
「・・・こっちこそ、ありがとうな。ひめのん」
「明神さん?」
「オレの誕生日は1月15日だから。その時はひめのんが傍にいてくれる?」
「うん」
それはきっと最高の誕生日になるだろうと、明神は姫乃ににっこりと笑い返した。
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