web拍手より











『つま先』


扇情的な赤の色



「あ、笹塚さんもお買い物ですか?」

夏も盛りに走り始めた7月のこと。
食料品・・・主に酒のつまみなんかを買いに来たデパートの地下で、笹塚は桂木弥子と会った。
ヤコの手にはすでに3パックものたこわさが提げられていた。

「笹塚さんもたこわさですか?この季節、これが合うんですよね、ビ・・・おとっとぉ・・・!!」
この季節ならビールにもよく合うだろう。
未成年という点は目を瞑っておこうと笹塚は小さく嘆息し、いつもの制服姿とは違う彼女の姿を一瞥した。
夏だけあって涼しそうな格好をしている。細く長い手足を曝け出し、小さな足はミュールに収まっている。
その先の爪は赤い。
小さな刷毛で丁寧に塗られたであろう、彩りも鮮やかな、赤いつま先。

ズクリと胸が疼いた気がした。

いつも厄介事に首をつっこんでくる少女は、あの当時の妹と類似する点がいくつかある。
同じような年齢で、こんな自分に気軽に声をかけてくるということ、その無邪気なところも。
どこか雰囲気も似ているかもしれない。
出逢った最初の頃は彼女の父親の事件も気になったし、それこそ妹を思い出していた点もあるかもしれない。
でも、違う。
今は、違う。
彼女は、違う。
でなければ、こんな想いなど抱くはずがない。

扇情的な赤に惑わされてる。


















寒いという彼女の肌は


木々を揺らす風は刺すように冷たい。
頬を攻撃しながら吹く風に、彼女は体を震わせている。
「さっむい〜〜」
寒い寒いといいながら、彼女が身に纏ってるのは学校の制服に短いスカート。それとマフラーだけ。
寒くて当然だと思う。スーツを着込んだ自分よりも涼しい姿をしているのだから。
「それじゃあ風邪ひくだろ」
風が強いから煙草を吸うのはやめた。
手持ち無沙汰になった右手を少しでも風を避ける為にポケットに突っ込んで、 彼女の答えを待つように首を僅かに傾げた。
「だって・・・」
出てきたのは答えには程遠い、たった3文字の言葉。
いくら有名な名探偵でも女子高生、ということだろうか。
彼女の格好は典型的な女子高生のものだ。それから外れたくはないのだろう。
「近くにおいしいおでんの店があるけど?」
どうする?と問うように視線を走らせれば、桂木弥子の顔がパアっと輝いた。
寒さよりも食欲が勝っているのではないか、と考えずにはいられなかったが、この際どっちでもいい。
自分は暖がとりたかったし、これ以上寒そうな彼女の姿を見るのが辛かったし、 このまま彼女と別れて家に帰るのは、寒いと思った。
「ほら、こっち」
促すように先に歩いて、彼女を誘導する。
僅かに遅れてついて来る気配にあたたかさを感じた。
一際強く風が吹いて、その冷たさに思わず目を細めてしまったけれども、寒い、とは感じなかった。 二人でいたい、と思った。











最初の事件で知りえた彼女の情報を、未だに頭の中に残している。

年齢も、生年月日も、学校の名前さえも。

いくら多くの借りがあったとしたって、そんなことはしてはいけないのに。

会う回数が増えるたび、彼女の情報が脳に刻み込まれて、消えなくなる。

桂木弥子という名とともに。








わざと残しておいたら消せなくなった。







「おはようございます」
「・・・・・・」
ああそういえば昨日からずっと彼女と一緒だったんだっけかとか思い出したけれども、生来の低血圧はどうしようもなく。
「笹塚さん?あの、大丈夫ですか?」
心配そうに自分の顔を覗き込んでくる彼女の顔をぼうっと見つめて思った。
『・・・・・・今日は目覚めがいい日だな』








彼女はぷいっとそっぽを向いてしまった。
柔らかそうな頬と思わずかじってしまいたくなるような耳だけがこちらを向いている。
彼女のころころ変わる表情が見たいのに、この角度では叶わない。今の、ふてくされたであろう顔もみたいのに。
笹塚は彼女の耳にかかっていた髪をそっとかきあげた。
「…俺のこと好きとか言ってなかったっけ」
「あんな風に意地悪な笹塚さんはキライ」
言い放ち、弥子は笹塚に背を向ける。
立ち去る雰囲気を察し、笹塚は彼女の手首を掴み、引き寄せた。
弥子の体を自身の胸で受け止めて腰に手を回し、弥子を腕の中に閉じ込めてしまう。
僅かに抵抗するように弥子の体は身動ぎしたけれども、やがて諦めたかのように弥子は笹塚の胸に頭を埋め
「笹塚さんのバカ」
小さく聞こえて来て、笹塚は弥子の頭を優しく撫でた。








「ふえ〜笹塚さーん」
「未成年なんだから飲んじゃだめだろ」
「笹塚さんのたこわさが美味しいから悪いんれすよ!」
「ほら、乗って。背中」
「わーい!おんぶー」








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