同じ轍






四方は土に囲まれている。唯一ぽっかり穴が開いているのは、近藤の頭上、遙か遠く。
「お妙さんー!!俺はこんなことじゃめげませんよ!!!」
精一杯発した声は、相手に届くことなく細く薄暗い空間に吸い込まれるように反響して消えていった。
近藤は、陽の光も射さないほどに深く掘られた落とし穴に落とされてしまったのだ。
幸いなことに、落とし穴には切り口を斜めに施された竹などは仕掛けられておらず、怪我などは負わなかったものの、出口までの道のりは相当に遠そうだ。

しかし、幾多の罠を乗り越えて志村家に潜入を繰り返している近藤である。
時間さえかければ、この落とし穴から抜け出すのにもなんら問題はない。

頭上の、空色にくりぬかれた出口を見上げ、近藤は握りこぶしに力を込めた、その時。
不意に背中に声を掛けられた。

「何やってんでィ、近藤さん」
「・・・おおー!!!」
まさか落とし穴に人がいるとは思わなかった近藤は、声に驚いて飛びずさった。
急いで振り向けば、人影がある。
しかもそれは近藤のよく見知った輪郭で、その人物が落とし穴にいる事態が再び近藤を仰天させた。
「総悟・・・!?総悟、お前こそ何やってるんだ!?」
薄暗い落とし穴にいたのは、沖田総悟だった。近藤の昔からの馴染みであり、真選組となった今でも弟のように思っている仲間である。
「何って、落とし穴で寛いでるんでさァ」
「奇遇だな、俺もなんだ」
総悟はいつものようにリラックスした様子で、狭い落とし穴の中でも普段のペースを忘れていない。
その空気にあてられたかのように近藤は応えを返したが、総悟の言葉は素直に飲み込めるものではなかった。
「って、違うだろー!何でだ!?」
「オイオイ、こういう時こそ新八にツッコんで欲しいところなんですがねィ」
「は?なんで新八君なんだ?」
「新八に逢いにきたらこの罠にハマっちまったんでさァ」
「そうかあ、俺もお妙さんに逢いに来たのにこのザマでな」
いくら状況が状況であるとしても、彼らは彼らである。会話のペースも、落とし穴に落ちた人間のようなものではなく、真選組にいるときとなんら変わりが無い。
「照れてるんですかねィ」
「本当になぁ」
「ちょっとホテルまで付き合えって言っただけでこれでさァ」
「ホホホ、ホテル!?総悟いつの間に大人の階段を進んでるんだ!?」
「いや、新八とは観覧車でのアレもまだでィ。○○して××とかいろいろやろーと考えてるってのに」
「そそそ総悟!?それ確実にSの階段だよね!?」



陽のぽかぽか当たる縁側で、志村姉弟はお茶を啜っていた。
「平和ですね、姉上」
「そうね、新ちゃん。落とし穴に獲物が二つも引っ掛かってから静かになって・・・とても穏やかな気分だわ」
ほう、と息をついて、お妙は空を見上げた。ターミナルへ向かって飛び交う船と、青い空。いつもと変わらない江戸晴れの風景が広がっている。
空気に酔ったように、おしとやかに頬に指先を添えたお妙の耳に、突然、全ての雰囲気をぶち壊す雑音が飛び込んできた。
「お妙さんー!!」
「新八ィ、迎えに来たぜィ」

ピシっと走ったのは家鳴りか、それともお妙の笑顔が凍る音か。
お妙はにっこりと笑ったまま、新八に目配せをした。
「新ちゃん、罠、発動ね」
「はい、姉上」
姉と似たような表情を浮かべた弟は、姉の命令に頷くと、縁側の縁にあるスイッチをポチっと押した。
すると、落とし穴から這い上がってきた近藤と沖田の足元にぽっかりと穴が開いた。
地面を失った二人は、再び奈落にも似た闇へと吸い込まれていく。
志村家要塞屋敷が誇る、落とし穴の第二ステージである。

「・・・平和よね、新ちゃん」
「そうですね、姉上。あの二人が出てこない限りは、平和ですね」
志村姉弟は、湯気の上がる湯のみを両手に包み込み、空を仰いだ。天晴れなほどの蒼穹の下で、二人は茶を飲み干す。
近藤と沖田が落ちていった落とし穴からは、掛け声のような音がどんどん大きく響いてきている。
それを聞かないふりをして、姉弟は空を見上げ続けた























観覧車のアレっていうのは、ちゅーのことですよー。
沖新というよりは、沖→新に近いですかね。
でも、私の中では沖新なんですよ。ほら、嫌よ嫌よも好きのうちとかなんとかー。




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