「へえ。ツナさん、こっちのお部屋に変わったんですね!」
ハルはにこにこしながら、ツナの横臥したベッド脇のパイプ椅子に腰をかけた。おもむろに鞄の中に腕を突っ込んで、そこからリンゴを取り出してツナに差し出す。
「ハル、今日はリンゴを持ってきました!」
「う、うん。ありがとう。ハル、あの、声を小さく・・・」
ツナは冷や汗をかきながら、両手を挙げて懇願した。
今のツナがいるのは最初にあてがわれた部屋ではなく、看護婦に案内されて移動したヒバリの病室なのである。
ツナは口に人差し指を添えて「し〜っ」と黙るように頼むと、ハルはきょとんと首を傾げる。無理もない。ハルはヒバリの本当の怖さを知らないのだから。
ツナがちらっとヒバリのほうを盗み見れば、ヒバリは今まで読んでいた本を脇のテーブルに置いて、端整な口許に笑みを浮かべている。
まるで何かを企んでいるような表情に思えて、ツナは震えた。
またゲームを始めるなんて言われてしまえば、ボコにされるに違いない。
『ヤ、ヤバイ!!』
ツナはすぐに上半身を起こして、立ち上がろうとした。
「どうしたんですか?ツナさん?」
「ハル、散歩に行こう!な?」
「はい!行きます!」
ハルは元気いっぱい手を挙げて、立ち上がった。ツナは早く早くとハルを急かして、部屋を素早く出る。
ドアの閉じた音に、ほっと胸を撫で下ろした。
「ツナさん、どこ行きます?中庭行きますか!?」
「う、うん」
『そこまで考えてなかったからどこでもいいや〜』
ツナはハルに促されるまま、中庭へと向かった。

あたたかな陽の降り注ぐ中庭をゆっくりと歩いていると、ハルが不意に「あっ」と声を上げた。
「ハル、病室に忘れ物したんで取って来ますね!」
「え!?ハル!今行ったらダメだって!」
「大丈夫です、すぐ来ますよ!」
ツナの制止も振り切って、ハルは駆けて行ってしまった。
もしもヒバリがゲームを再開してしまったら、ハルは一体どういう目に遭ってしまうだろう・・・。
『あ〜!ハルが咬み殺されちゃうよ〜!』
ツナは怪我で思うようにいかない体を必死に動かしながら、ハルを追いかけた。


ドアを開けて、ハルはツナのベッドの足元に置いた自分の荷物を肩に担いだ。
相部屋のヒバリが寝ているのを見て、『静かにしないといけませんね!』と足音を立てないようにそうっと歩こうとする。
その時、ヒバリが読んでいた本がパタリと落ちた。
『あ』
放っておけず、ハルはしゃがみこんで本を拾い上げた。
それをベッド脇のテーブルに置こうとした時、不意に手が伸びてきて手首を掴まれた。
「はひ!?」
それはベッドで寝ていたはずのヒバリの手だった。
彼はいつの間にかベッドの上に身体を起こしてハルの手首を掴み、口唇に笑みを浮かべていた。
「・・・」
ハルは、ヒバリの瞳に見据えられたまま何も言えなくなってしまった。
数々の修羅場を只一人で潜り抜け、学校でも社会でも絶大な権力を持つ男の鋭い眼光には、抗えないほどの力が宿っている。無邪気で無垢な少女も、その光の前に圧倒してしまう。
ヒバリは不安げに揺れるハルの瞳に目元を細め、彼女の身体を抱き寄せた。
「はっ、はひー!?」
「この部屋に来てもらった人にはゲームに参加してもらっているんだ。ルールは簡単。僕が寝ている間に物音をたてたら・・・咬み殺すってね」
ヒバリはその瞳に剣呑な光を湛え、ハルの首筋に口唇を走らせた。
「!!!???」
肌に口唇を這わされ、強く吸われて、歯をたてられた。
ハルは目を見開き、肩を震わせた。自分の身に何かが起きていて、それが今まで体験したこともないようなことで、危険なことだとはすぐに解った。
逃げなくては、と思った。
けれども、ヒバリの手はハルのよりずっと大きくて、力があった。
身体は逞しく、あがくことも出来ない。
そして、二人触れ合った箇所が、首筋が、熱い。


「ハル、無事かな!?」
ツナは必死に廊下を歩いていた。怪我のせいで走れないのだから歩くしかない。病院の廊下の手すりを頼りに歩きながら、前から突進してくるハルに気がついた。
「ハル!無事だったのか!?」
「ハル、もう帰りますね!」
物凄い勢いで、ハルはツナの脇を通り過ぎてしまった。
「・・・?」
いつも天然で行動が予測できないハルだが、今日もまたワケがわからない。
忘れ物を取りに行って、何か用事でも思い出したのだろうか。
『ともかく、無事ならいっか・・・』
そう思ったが、
「でも」
通り過ぎる瞬間、ハルは首筋を隠すように手の平を覆っていた。
何か用があったとしても、何も言わずろくな挨拶もせずに行ってしまうような娘ではないと、ツナは知っている。
「何か、あったのかな・・・?」
呟いてツナは振り返ったが、もうハルの姿は無かった。
ゆっくりと部屋に戻ってみれば、ヒバリがベッドに体を起こし、口唇に笑みを浮かべながら本を読んでいた。
『?』
ツナは、今までこんなに上機嫌なヒバリを見たことがない。
機嫌がいいなら越したことはないけれど。
『・・・なんか』
何か引っ掛かるものがあるものの、ツナにはその正体がわからない。
ただ首を傾げて、さっきのハルの様子もおかしいなと思い出していた。












標的29を再び読んで思いついたヒバハルネタ。
ツナはすぐに部屋を変わっているので、本当はハルがヒバリの部屋に入ることはないわけですけど。
初読み時はひたすら獄ツナに心を奪われてしまっていいたので、ヒバハルまで萌えが回っていなくって(笑)

「咬み殺す」ってところがいいですよ!
咬むのですよ!うひひひひ!(怪)
ちなみにヒバルはなんとなくハルを気に入っていて、わざと本を落としてみたりしてちょっかい出したって感じです。
そのうちマジになって、マジにちょっかい出すようになってハルを堕として欲しいです(爆)







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