妄想 ヒバハル
「ふっ、うえぇぇんっ!」
肩を震わせて泣いているのはハルだ。
ヒバリの横たわるベッドに顔を突っ伏して、ずっと泣いている。
怪我のせいでベッドに縫い付けられているヒバリは、視線だけを動かしてハルを見下ろした。
彼女の涙でぐしゃぐしゃになった顔を見ていると、眉が自然と歪んでいく。胸のあたりがムカムカし始めて、ヒバリは機嫌が悪いことを自覚した。
どうしてハルが泣くのか理解できないからだ。
傷を負ったのは自分だ。傷の痛みなどハルにはわかりようのないことなのに。
「どうして君が泣く」
「ふえっ、ふえええん」
耳をつんざくばかりの大音声。
よく知っている院長のおかげで病院からの苦情は一切ない。もとより他人の目など気にしない。文句など言おうものなら、問答無用で叩きのめす。
問題なのは、自分はハルの泣き声をうるさいと思っているのに、出て行けとも邪魔だとも、ハルに対して言葉が出ないことだ。
何故なのか、と考えようとすれば心の中に靄がかかる。
奥底から生み出されるこの根源的な感情に名前をつけようとするが、それは許されないような気がして、今までの自分がそれを許さないような気がして答えを曖昧にしてしまう。
しかし、冷静な自分は混沌とした思惟を突っぱねる。自分はそのような問いの答えも割り出せぬほど愚鈍ではないはずだと答えを求めてしまう。
必死に、心に逆らい理性でものを考えて。
・・・億劫なだけだ、と結論づける。
まるでいい訳のような答えで。
ハルのことを追い出さないのは、ひたすら億劫だからなのだと。
まるで言い聞かせるかのように繰り返す。
「ヒバリさんっ、無事でっ、よかっ・・・た・・ですっ・!」
ハルが肩を震わせながらも途切れ途切れに言葉を紡ぐ。目は真っ赤で、顔だってぐしゃぐしゃで髪も乱れてしまっている。
何か一言冷たい言葉でも落としてしまえばいいのに。いつもの自分ならきっとそうするのだろうと思うのに。
ヒバリは、ただ静かに女の泣き声を聞いていた。