如月









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「もうすぐご飯だから、お菓子は駄目だよ。神楽ちゃん」
新八は、ソファで長い足を投げ出して横になっている神楽に声をかけた。彼女はテーブルに置かれたチョコレートに、何度も何度も手を伸ばしている。
テーブルの上に広げられたチョコは、新八が女子学生たちから貰ったものだ。
町で絡まれていた女子学生の団体を助けてから、新八は事ある毎に女子学生たちに声を掛けられるようになった。
もててるなあーなどと銀時には囃されたが、新八はただ遊ばれているだけなのだと考えている。女子学生の態度からは真剣さはあまり感じられないからだ。だからといって無下にも出来ず、ある程度の距離を保っているところだ。
バレンタインデーだからと沢山のチョコも貰ったが、全部が義理だろうとテーブルの上に放置しておいた。そこにおいて置けば誰かが気付いて食べてくれるだろうとの甘い見通しがあってのことである。
案の定、神楽がそれに手を出した。
しかし、いつもおやつを食べる様子との違和感を覚えて、新八は首を傾げる。
女の子らしい一面も持つ彼女は、綺麗な包装の施されたものを目にすると、目を輝かせるのに、綺麗にラッピングされたチョコは今や無残な姿と化してしまっている。
包装が気に入らなかったのだろうか。
そんなことを思いながら、新八は再度、神楽に声をかける。
「神楽ちゃんー、もうご飯だからねー」
しかし、神楽の手は止まらなかった。心なしか、さっきよりチョコを抓む手の動きが早くなっている気がする。
新八はしょうがないなあとため息をついて、ガスコンロの火をつけた。
ガスコンロの上のフライパンには油がなみなみと注がれている。火の具合を見ながら、新八は菜箸の先にほんの少しつけた衣を落とした。
衣は浅く沈み、すぐに表面へと浮かんでくる。
油が適温になったことを確認し、新八は衣をつけたさつまいもを油の中へと投入した。
泡を吹き出す音を聞きながら、少し気分が乗ってきたことを感じて新八は口唇を緩めた。
料理は嫌いではない。
必要に迫られて始めた家事で、上手いとは言い切れないが、性には合っているようだ。
フライパンの中を見ながら、新八は油をきるための網を手にする。
「新八」
不意に神楽から名を呼ばれて、新八は曖昧に応えを返した。
どうせご飯の催促だろうと新八は振り向こうとはしなかった。
今、てんぷらから目を離すのは危険行為でもあったし、何よりお菓子を食べ続けている人間がご飯を待ちきれないなんてどういう事だ、という憤りもあった。
せっかくご飯を作っているのだから、やっぱり味わってもらいたい。偉く言うほど自分の料理が上手だとは主張できないから、黙っているけれども。
「新八―」
しかし神楽には新八が無視したことが不満らしく、再び名前を呼ばれた。さらに、近づいてくる足音がする。
「なあに、神楽ちゃん」
しょうがないと諦めて、肩越しに振り返ってみれば、細くて白い腕が伸びてきた。
それは、神楽の腕だ。
この数年で新八も多少、背は伸びたが、神楽の成長度とは比べようが無い。
彼女の四肢はしなやかに伸び、今や身長は新八と変わらぬほどだ。陽に侵されることなく照る肌は肌理が細かく、白い。
髪型も衣装も昔と対して変わらぬというのに、その雰囲気は少女の域を超え、女性へと変貌を遂げた。
そして、成長とともに彼女自身の力も増していった。
元々、力では神楽に敵わなかった新八だ。今でも力ではさっぱり敵わない。
神楽の腕が首に巻きついて、完全に自由を奪われてしまう。
『一体、何を―――』
思っている間に、新八は神楽に口唇を奪われた。
「んっ・・・!!」
引き結んでいた口唇はあっという間に割られ、その間から舌が侵入してきた。
確たる意思を持ったそれは、新八の口内に小さな塊を押し込んでくる。
拒むことも出来ず、新八は口の中に塊を受け入れた。
その間にも神楽は執拗に舌をくねらせ、新八の口内を侵していく。
塊は、舌と舌に揉まれて、蕩けていく・・・。
『・・・チョコレート、だ・・・』
溶けていくのは、甘い甘いチョコレートだった。
さっきまで、神楽がつまんでいたチョコだろうか。
そう思い至ったときには、神楽の舌が新八の歯列をなぞり、新八もまたそれに応えようとして・・・フライパンの油の音で我に返った。
僅かな隙を見て、彼女の肩を押しやって体を離す。荒い呼吸と口の中のチョコの残滓が艶かしいようで、今更ながら顔に熱が走った。
「・・・っ、神楽ちゃん!?」
「今日はバレンタインデーだからアル」
「そういうことじゃなくって、ってあー!焦げるっー!!」
新八はすぐさまガスコンロの火を消した。さつまいもの無事を確認して、手にしていた網にさつまいもを上げる。
それをテーブルに置いて、ようやく新八は安堵の息をつくことができた。
神楽はといえば、不思議そうに小首を傾げている。
「だめだったアルか?」
悪気の無い言葉に、新八はカチンと怒りのスイッチが入るのを自覚した。
「当たり前だろ!てんぷらの最中だよ!?そんな時に、・・・キス、なんて!」
一歩間違えれば、大怪我をする、火事になる。そんな危険もわからないのか、 と新八は言葉を連ねるけれども、神楽は自分のとった行動がどれほどの危険行為かさ っぱりわかっていないらしい。
「じゃあ、てんぷらしてない間はいいか?」
「・・・そういう問題じゃなくて」
とりとめの無い会話に、新八は内心ため息をつく。
彼女とのキスが嫌なわけではない。
嫌なわけではないが、節度というものがあるだろうと新八は考える。
一緒に住んでいるような状態であるからこそ、それは必要だと思うのだ。
古風な考えだと自分でも思うがしかし、新八はそうやって姉に育てられてきたのだから仕方ない。
「駄目アルか?」
「料理中は危ないから駄目」
「じゃあ、今はいいアルネ」
「へ?」
神楽に腕を掴まれた、と思ったら足を払われ、そのまま体が傾いでいった。
視界に天井が飛び込んできて、自分が後頭部から床に倒れるのだと気付いた時には、ぐいと腕を引っ張られていた。
そのおかげで新八は床に頭をぶつけることはなかったが、体はすっかり台所の床に沈んでしまった。
腕は神楽に捉えられたままで、上半身は浮いた状態だ。しかし突然、神楽の腕の支えも失って、新八は肩をぶつける羽目になった。ドン、と鈍い音が台所に響き渡る。
「痛っ」
小さく叫び、肘をついて上半身を起こすと、神楽は新八の上に馬乗りになっていた。
「神楽ちゃん!?」
新八は目を剥いて、急いで立ち上がろうとしたが、情けないことに渾身の力を振り絞っても神楽を振り払うことが出来ないのである。
力の差をまざまざと見せ付けられて、新八は気を落とした。
いざというときくらい、男らしいところを見せられればいいのに。これでは完全に舐められているようで、重々しい気分に陥ってしまう。
それでも、この状況は回避せねばと抵抗の姿勢だけは崩さないことを心がける。
神楽は、そんな新八の心境など知らないとばかりに、彼に覆いかぶさるように迫ってきた。
「今日は、バレンタインデーアル。新八」
「それは知ってるよ!チョコだって、もう、もらったから」
先ほどのキスが、バレンタインデーなのだと神楽は言った。
新八はそれを受け取ったのだから、この行事はもう終わりだろうに、これ以上何があるというのだろうか。
「まだ新八からお返しもらってないアルよ」
「お返しは、ホワイトデーじゃないの?」
姉のある身であるから、一ヵ月後にあるホワイトデーには三倍返しというのが決まりごと、と新八の頭の中にはインプットされている。
「今日、貰うアル。・・・一番に、貰うアル」
神楽の目が、鈍く光ったのが見えた。それは獲物を狙う猛禽類のようでもあり、焦りがじわじわと滲んでいるようにも見えた。
彼女はポケットに手を突っ込んで、小さな銀紙に包まれたものを取り出した。
銀紙を剥がして、口の中に放り込む。
彼女はそれを咀嚼することなく、新八に向き直った。視線が絡まり、新八は圧倒された。
その瞳の強さに、色に鮮やかな様に。
神楽の動きから目を離せない。
薄い色素の髪は、手に柔らかなことを新八は知っている。
その強い瞳が、色に染まる瞬間を知っている。
お互いが初めて熱を与え合った相手だ。
その仕種も熱も色も何もかも、新八の中に大切に仕舞ってある。いつでも取り出すことが出来る。
新八の勘が正しいならば、神楽は本気だ。彼女が本気ならば、新八はそれに対抗する術を知らない。
新八が息を飲むと、神楽は伏せがちの目を更に細め、少しずつ距離を縮めてきた。
しなやかな手が伸びてきて、新八の眼鏡を奪っていく。神楽は新八から視線を逸らさないまま、それをキッチンカウンターの縁に置いた。
柔らかい口唇が降ってきて、新八は、とうとう目を閉じた。舌で口唇を割られて、そこからチョコレートが流れ込んでくる。
さっきと同じ味の、甘い甘い酔ってしまいそうな、味。
もしかして、さっきのチョコも、今のチョコも、神楽が自分のために用意してくれたチョコなのだろうか・・・?
段々と朦朧としていく意識の中、新八は上半身をゆっくりと床に預け、自分の体を支えていた両腕を神楽の首に絡ませた。何度も角度を変えて、口内のチョコを二人で溶かしあっていく。
ねっとりと蕩けていくチョコレートは、まるで媚薬のようだ。
台所の冷たい床を全身で感じながら、新八は自分の中からわきでる熱に翻弄されていった。










新八はもてます。
真選組の方からも,もてます(ええ!?)
そんな神楽ちゃんの心配話