皐月
アメフトの試合は、雨天決行。
だから、雨の日の試合に備えて、雨が降っていても外での練習が行われる。
その日は、雨。
分厚い雨雲からは絶えず雨粒が落ちて、視界を奪っていく。
土砂降りというほどの悪天候ではないが、ひどくうっとおしい、というのが正直な感想だった。
叩きつけてくるような雨音を聞きながらボトルにスポーツドリンクを詰め終えた若菜は、
着ていたウインドブレーカーのフードを被って、一気に外に出た。
全身に、雨の雫が絡み付いてくる。
風も出てきたようで、雨粒が顔にかかる、目に入り込んでくる。
雨を少しでも避けようと頭を下げようとした時にはすでに遅く、フードが風を受けてしまった。
「あっ・・・」
空気を含んだフードはまるで踊るように揺れて、若菜の背に落ちた。
先ず最初に、冷たさを感じた。雨は容赦なく若菜の髪を打つ。
背中のフードを目で追おうとすると、視界に飛び込んできたものがあった。
それは、雨を全身に受けながらも、練習に打ち込む選手たちの姿。
その姿は、毎日変わることはない。
日差しが強い日も、雨が降っている日も、いつも。
きっと彼らの目には、太陽など、雨など、映っていないのだ。
見据えているのは、勝利のみ。
若菜は、小さな雨避けのあるベンチに、ドリンクを置いた。
前髪から珠のような雨粒がぽとぽとと音を立てながら、地面に落ちていく。
目にかかる水滴を手で避けながら、若菜はグラウンドに視線を滑らせた。
「若菜くん?フードはどうしたんだい?」
高見の心配するような声音に、若菜は黙って首を横に振る。
視線をグラウンドから逸らさずに。
「いいんです、これで」
熱の込められた言葉の先には、進の姿がある。
雨を受け、それでも練習を重ねる彼の姿が。
若菜は、視界の端で高見が眼鏡を直しながら嘆息する姿を捉えた。
その姿も、髪の先から落ちていく雨の珠でぼやけていってしまう。
若菜は、まるで尾を引いて落ちていくような雨を見つめながら、雨の音色に身を委ねていく。
雨は、降り続いていく。
進の上にも、若菜の上にも、同じように。