チビ




自分は背が低い。
姉上と目線がほぼ一緒だし。
タンスの上の物を取る時には台がいるし(銀さんはひょいって取ってしまう)、スーパーの一番上の棚を見上げちゃうくらいだし(銀さんの目の高さは棚の一番目、僕は2番目、神楽ちゃんは3番目)。

あの人と口唇を合わせるとき、背伸びをしてるし。あの人は腰を屈めてるし。
身長が一個分違うから、いつもあの人を見上げてる。
首が痛いとか彼を見下ろすほどの身長が欲しいとか、そんなわけじゃない。

――――何だかその距離の分、物理的な距離だけでなく他の距離も離れてる気がするのだ。


切ないような、もどかしいような気がして。

もっともっと近づきたいと思ってしまって。

・ ・・・・・そんなことを考えてしまう自分に恥ずかしくなる。



「何、考えてんだ?」

「別に何も考えてませんよ」

「嘘つけ。ぼーっとして」

「してませんてば」

「吐けば楽になれるぜ」

「常套句ですね」


彼の職は警察だから。


でも言えるもんか、言えるはずがない。

もっともっとあなたに近づきたいと思っているなんて。

恥ずかしい、そんな感情。
そんな、当の本人のあなたに。










「吐けば楽になれるぜ」

新八に言った言葉は、実は自分にも返って来る言葉だったりして口許が歪む。

吐いてしまえばいいんだ、そしたら楽になれる。

笑う少年の耳元に“お前が今すぐ欲しいんだ”と。

どんな顔をするだろう、眼鏡の奥の瞳はどんな感情を映し出すのだろう。


これが女相手なら相手の顔色など見ずとも強引に事を進めてしまえるだろうに。
実際、そうやってきたのだから。

しかし、新八相手にはどうしても顔色をうかがう。
どんな感情を表すのか知りたい。どんな表情を浮かべるのか見たい。
言葉を紡ぐことで、少年がどう反応するか知りたい。

言葉と言葉だけのコミュニケートは始めてで、廓の女を喜ばせる言葉は知っていても新八を喜ばせる言葉はわからない。
コイツを喜ばせる言葉は、違う。

「常套句ですね」


ああ、“吐いてしまえば楽になれる”さ。

抑えているのも限界で。



「お前が」

眼鏡の奥をじっと見つめて。

その目が何色に染まるのかと期待して、瞳の輝きが曇ってしまわないかと不安を抱えつつ、口を開く。



















先に進む、二人。



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