探しもの







スーパーマーケットに買い物袋を持参すると、ポイントカードにポイントが加算される。それを溜めると、スーパーの割引券がもらえるのだ。
万年赤字の万事屋の家計を預かる新八がそれを見過ごすわけがなく、買い物に行く時はいつも買い物籠を持参している。
主婦に混じって竹で編まれた買い物籠を持って歩くのも、もう慣れた。
新八がいつものようにスーパーで買い物をしていると、目の端で黒い服を着た男の姿を捉えた。
弾かれたように振り返り、それが真選組の制服だと気付くと、新八の心臓がドクリと大きく跳ねた。しかし、その制服の男が土方十四郎ではないことが判ると、安堵に似た吐息が漏れた。
いつの間にか鼓動も正常に戻っていて、ほっとしている自分に気付き、どうして一人で勝手にドキドキして一人でほっとしてるんだー!?と頭を抱える。
それが、真選組の隊士を見た新八の常だった。
「・・・別に、なんでもないって」
小さく口の中で呟いて、新八は手に握っていたマヨネーズをカゴの中に入れた。今日の夕飯はポテトサラダを作る予定だ。
ご飯は朝炊いた分をそのまま出して、じゃがいもを茹でて、野菜も切って、お味噌汁も作らないと。
頭の中で献立を組み立て、強制的に真選組の制服を頭の中から排除しようとして失敗し、新八はため息をついた。
ずっとおかしい自分の心が情けなくて。
あれから、土方十四郎とはまったく会っていない。
街を歩いていても、スーパーで買い物をしていても、会うことがなかった。
最初こそ、苛々してあのような人と会いたくなんて無いと思っていた新八だったが、最近では彼の姿を探している自分がいた。
自分の気持ちがわからなかったせいで、あんなに苛々したくせに、今ではこんなにも彼に会いたいと思っている自分がいる。
気にせずに忘れてしまえばいいのに、彼と話したいと思った。
だって、そうでなければ、自分のこの心のざわめきの正体がわからないではないか。
煙草の立ち上る煙も、マヨネーズも、黒い制服も、どうして全てあの男に直結するのだ、この頭の中で。
街でいつの間にかあの姿を探していて。
会えないと思えば、何度もあの冷たい言葉が降りてきて新八の胸を蝕み。
わけもわからず鼓動を激しくする心臓を持て余し。
さざ波となって胸に押し寄せるこの心の動きの正体がわからず、不安で。

新八は離れがたいようにあたりを見回してから、調味料の並ぶ棚から次のコーナーへ移動した。
どうやら、今日も会うことは叶わないようだ。
そう思うと新八の心に翳が生じる。
さみしい、にも似た感情に心が支配されていく。
そんな感情を新八は今まで知らなかった。
それがどんな意味を持つのかも、どんな名前を持つのかも知らない。

「新八くん」
「・・・山崎さん」
声をかけられて振り返ると、そこには隊服に身を包んだ山崎退の姿があった。
山崎は手にマヨネーズを持ち、ため息と共に肩を落とす。
「新八くんも買い物?俺は副長のパシリなんだけど。見回りの最中だってのに、買ってこいって」
彼はおもむろにスーパーの出入り口を指差した。
副長がそこにいるということだろう。

新八は大きく目を見開いた。
その一瞬だけ、自分の周りの音が聞こえなくなって目に光すら届かず、心の中も真っ白になった。
きゅっと口唇を引き結ぶ。
ドクリと一度、心臓が暴れた。














さがしものは土方十四郎と、この胸の感情につける名前。




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