土方は悩んでいた。
それは万事屋の眼鏡をかけた少年、志村新八のこと。
わけのわからない出会いから、わけのわからない事件を経て、局長の想い人の弟だとかそんな縁もあって、今では挨拶など交わす間柄になった少年のことだ。
街で会えば、話をする。
軽く一緒に歩く。
今も、そう。

「巡回ですか?」
「ああ、まーな」
適当に応えを返し、煙草を咥える。
新八はそうなんですか、と静かに言って頬に笑みを浮かべる。


新八は16歳。いまだ大人にもなりきっていない、子どもでもないという中途半端な年齢にあり、けして体の線は細くないが小柄で、顔は女と見まごうこともある。艶やかな黒髪と大きな目は、姉によく似ている。元々女顔のせいもあるだろうがやはり、どこか女を感じさせるつくりなのだ。
メガネの奥の目は大きく、ころころと変わる表情が実に可愛らしい。

ちょっと待てよ、と土方は自身の思考にツッコミをいれる。
男相手に可愛らしいと思うなど、可笑しなことだと意識を切り替えるかのように頭を振る。
けれども、そう考えたのは今日が初めてではなくて。
会うたびに。
会った日の夜、その日の出合いを反芻してしまったりして脳裏を過ぎる言葉で。

―――コイツが女みたいな顔をしてるからだ。
土方は必死に自分に言い聞かせる。
そう、新八が女のような顔をしていてきっとそれが自分の好みの顔なのだ。
言い聞かせてる時点で、もう終わりだろうというツッコミを飲み込んで、必死に抗う。
新八の顔が好みなだけだ。きっと、コイツの姉を見ても同じようになるだろう。
しかし脳裏に描いた新八の姉は、やはり新八の姉だけあってそっくりではあったけれども
心が波立つような感覚がなかった。新八を見ている時のような、小波は。


―――それも違うだろ。
自身にツッコミを入れて、一身腐乱に煙草を吸い、精神を落ち着かせようとしていたところに新八が声を上げた。

「わあ!」
子どものように無邪気な声音に、土方はつられるように新八の視線を追った。
彼の視線の先にあったのは移動式の屋台、風鈴売りだった。
揺れるたび、風の吹くたびに涼やかな音色を響かせる色とりどりの風鈴を見る新八の目はキラキラと輝いている。
「欲しいのか?」
「えっ!いや、うち扇風機しかないんで、風鈴でもあれば気分的には涼しくなるかな、なんて思っただけで」
照れくさいのか頬を赤く染めながら見上げてくる新八に、土方は目を瞠った。
瞳孔が開いてたかもしれない。
新八のあまりにも何気ない表情に、最高潮の波が来てしまって。

土方の心臓が早鐘を打ち始めた。全身の血が滾るのを感じている。

熱度が上がる。指の先から、つま先まで電流が走ったかのように痺れた。

心も跳ねる。

高揚感、とでも言うのか。

けれども刀を交える時とはまったく違う高揚感に、土方は自覚させられることになる。

堕ちてしまったのだと。

自分が、恋に堕ちたのだと。

今、はっきりと、身をもって。













土方さん自覚編。
微妙に続く予定です。

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